人間の脳の神経細胞は、三〇才を超えたあたりから一日一〇万個ずつの割合で消失していくといわれています。脳の神経細胞の総数が約一四〇億個もあるとはいえ、一日一〇万個はかなりの数です。中年期以降「もの覚えが悪くなってきたな」とか「判断力がにぶくなってきたな」といった自覚症状を感じはじめるのは、そうした脳の神経細胞の減少が影響しているわけです。また、脳の神経細胞が消失すれば、当然、その中に含まれているDHAも同時に失われていきます。そうでなくても魚ばなれの影響で、脳内に不足しがちなDHAなのに、老化によって毎日大量に失われていくとなると、それが脳の機能低下に、いっそう拍車をかける結果になってしまいます。実際に、わたしたち研究グループは「高齢ネズミ」と「若いネズミ」を同じエサで飼育し、それぞれの脳内のDHA量を調べる実験を行なっていますが、やはり高齢ネズミのほうが脳内のDHA量が明らかに少なくなっていることが確認できました。そしてDHA量の少ない高齢ネズミの脳内では、シナプスの膜が硬くなっていることもわかりました。とすれば、シナプスの膜を軟らかく保ち、情報伝達の担い手であるアセチルコリンを増やすDHAを、脳内へどんどん補給すれば、脳の老化抑制への有効性が期待できるはずです。その後の実験で、脳内のDHA量が減少している高齢ネズミに、DHAの多いエサを一ヵ月間にわたって与え続けると、脳内のDHA量が若いネズミと同じ程度までよみがえることが確認できました。したがって、老化によって脳の神経細胞の数がかなり減少し、すでに記憶力の低下や学習能力の衰えといった自覚症状を感じはじめている場合でも、若いころ以上に魚(あるいはDHA)をたくさん食べて、残っている脳の神経細胞に逐次DHAを補給しておけば、神経細胞の減少による脳の機能の低下を最小限に抑えることができると考えられます。
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